事の発端はある日見かけたこのツイート。
コスメなど、こうやって見知らぬ人が激推しする商品を買ったことは過去にもある。
でも人それぞれ価値観は違うし、もしかしたら巧妙なステマかもしれない…と思いつつも、常時疲労しておりプロの肩凝り士(※)でもある私は正直めちゃくちゃグラついた。
※このような資格は存在しません。
昨年より毎月マッサージに行きメンテナンスをしているガチ勢の私ですが、
入浴剤…その発想はなかった。
思い返せば実家には入浴剤という文化があり、私はといえば、知らぬ間に妙な色に染められた湯に、毎日なんの違和感も持たずただただ浸かり続けていた。
「きき湯」の「きき」は、言わずもがな「効き」であろう。
私は薬機法についてはまったく無知であるが、近頃の医薬部外品は効能のアピールにおいて好き放題しているイメージがある。本当に効くのだろうか。

気がつけば私は「きき湯」への興味で頭がいっぱいになっており、近所のドラッグストアに行くのも億劫な出不精のためその場でAmazonをポチった。
この入浴剤には種類がいくつかある。選んだのはもちろん「肩こりに」と書いたものだ。
肩の凝り様ならば溢れるほどに自信がある。なんなら腰もちょっと痛い気がする。
さしずめ猫まっしぐらといったところで、むしろ選ばぬことなどできなかった。
※疲れすぎていて買った後から気づいたけれど、『肩こり』と書いたものは私の選んだ緑だけじゃなかったです。他のもなんやかんや『肩こり』含むラインナップいくつかありました。公式サイトとか見てみてね!
さて、届いた「きき湯」を開封してみる。
キャップは軽量カップを兼ねていて、ラムネのような小さなビーズを内側の線のところ、定量までザラザラと注ぐ。
そもそも入浴剤を使うことは背徳感と背中合わせだ。
毎日バスタブ一杯もの大量のお湯をためてそこに浸かるだけでも少しばかりの罪悪感があるというのに、私個人の快楽のために更に分解しにくいものを混ぜてしまうのである…!
私はいったん深呼吸をして、キャップに入った薄緑色のビーズをザラザラと湯に投入した。
世界は一瞬にして緑色に染まった。もう後戻りすることはできない。
これは発泡するタイプの入浴剤だったらしく、シュワシュワと小気味よい音と爽やかな柑橘系の香りが浴室に広がる。
これはどのようなタイミングで湯に入ればいいのか?溶け切ってから??はたまたこの泡も利用するの???(説明書を読まないタイプの人間)と戸惑いながらも結局適当なところで湯に浸かってみた。

本日の入浴二番手のため少し冷めている湯の温度が、心なしか上昇した気がした。
入浴剤の機能で本当に上がったのか、気持ち的に上がったのかはロクに説明を読まなかったため、定かではない。
まだ溶け残ってシュワシュワと泡立つビーズを尻で踏んでしまい「アチッ」となったけど本当に熱かったのかどうかもわからない。説明を読んでいないから。
まあこんなものか…と風呂から上がり、一晩寝て翌朝。なんとなく体が軽いような、よく寝られたような感覚があった。
私は疑り深い性格なので、これはきっとプラシーボ効果※かもしれないと結論づけた。
※プラシーボ効果…「効果がある!」という思い込みによって実際に効果が出る事。か知らんけど。
しかし、その日の晩から…
私は毎晩「きき湯」のボトルを持って風呂に入るようになってしまった。
疲れや肩こりなら毎日きっちり溜まるので、この「きき湯」で毎日バスターしなければいけないような気持ちに狩られている。
気がつけば私は「きき湯」のとりこになっていた。
日々すさまじくスマホに依存している私は、この時ぐらいはと風呂にスマホを持ち込まないようにしている。
自然と入浴中は「きき湯」のボトルをぼんやり眺めて過ごすのが日課となってしまった。
白と緑のバイカラーのシンプルな構成。明快な黒で描かれ、あたたかみのあるオレンジで縁取られた「きき湯」の商品名がその自信を示しているのだろう。
緑色の持つ癒やしの効果を感じながら、上部のほどよい余白の白にまで癒やされる始末。
なにより目が行ってしまう、泡に包まれながら湯に浸かるシルエット人間は…私なのだろうか。
はたまた、今この瞬間に「きき湯」に癒やされている人々でもあるのだろうか。
あくる日もそのまたあくる日も、私は無心で「きき湯」を投入した。
今日の私は「きき湯」を使っていいぐらい頑張っただろうか、という軽い自問自答の末「イエス!」と元気よく「きき湯」を湯に投入するのが一日の終わりの儀式となった。
そして昨日、ついにファースト「きき湯」を一本使い切ったのだった。
私、いつも毎日頑張ってるよな。
そう思いながら片付けた空のボトルは、今朝プラゴミで回収されていった。
…あっ、これもしや詰め替えパックとかあったりしないよな。ボトル捨てちゃったよ。
ふと洗面台を見やると、緑色のキャップだけが所在なげにぽつん、と残されていた。